噛み合わせと顎関節症の関連を考える。
木から降りてきた我々の先祖は立ち上がった結果、手が自由になって顎を使わなくなったが、群れを作って道具を使うようになった。集団が大きくなり社会的関係に対応するために脳が肥大化し、顎や頚に負担が増大した。さらに約1万年前、大型動物をほとんど食べつくしてしまったために農耕を始めて近代文明を発祥させた。農耕によって1つの作物に頼ったためにビタミン、ミネラル不足を引き起こし、顎骨の退化、不正咬合、骨関節炎を被るようになった(J.ダイヤモンド,長谷川真理子,長谷川寿一訳:人間はどこまでチンパンジーか, 新曜社,274-278,1993.)文明が始まると暮らしが一変し、便利さを追求する中で、ストレスにあふれた社会を生み出した。二足歩行を選び、文明を作り、ストレスに対する防衛規制として食いしばりしだし、咀嚼器官への負担が増大したため、多くの人々がTMD(顎関節障害)を経験するようになったのかもしれない(ディスモンド モリス,日高敏隆訳:裸の猿, 河出書房新社,125-142,1990.)TMD(顎関節症)の起源とメアリー リーキーが発見した約350万年前の足跡。
直立し文明化によって咀嚼器官に負担が増大しTMDを経験するようになった。 TMDは口腔顔面痛の一つで、1.関節、関節の動かす筋肉の疼痛、2.関節の可動域の制限、3.関節雑音の3つの特徴的な症状を有し、咀嚼筋群、顎関節、又、それらの構造に関わる臨床的な状態とされている(Charles McNeill,Orofacial Pain,AAOP Guidelines Quintessence Publishers, 116,1996.)近年、このTMDに対する治療のプロトコールが明確にされ、投薬、行動療法などのメディカルモデルの治療が広まっているのであるが、疼痛管理の専門的な知識や技術のない一般歯科医が咬合治療というデンタルモデルを用いていかにして治療に参加できるかを考えた。
Homo sapiens, having come down from branches, and developed their own brains, began not to use their jaws, as they started to use their hands much more often than before. They also started using tools and living in groups. About ten thousand years ago, large-sized animas died out, and people started cultivation, forming civilization. However, their dependence on certain crops caused lack of vitamins and minerals in their diets, leading the obsolescence of jaw bones, often causing mal-occlusion, as well as bone arthritis. Civilization also changed people’s life style, i.e. people started to look for convenient ways of life, but at the same time, they started to have psychological stress. It is common for people in modern civilization to have a habit of clinching in order to control their own psychological stress, giving heavy weight on chewing organs. As a result, several people suffer from TMD, Temple Mandibular Disorder, one of the facial neuralgia, with which patients constantly feel pain on their jaw joints. Recently in medical studies, protocols for TMD have been made clear, and medication as well as physical therapy for TMD patients have been introduced.This will explore how far dentistry can contribute to the treatment for TMD through occlusion treatment, even when dentists lack the professional knowledge on controlling of throbbing pain.
野生の稲は湿地に生えるが湿地の水が枯れると種をつける性質があることを発見した我々の先祖は農耕を始めた。 | TMDの起源とメアリー リーキーが発見した約350万年前の足跡,直立し文明化によって咀嚼器官に負担が増大しTMDを経験するようになった |
OFP(口腔顔面痛)は1.歯科疾患疼痛、2.TMD 疼痛、3.非TMD 疼痛に分けられる
OFP Classification
1.Dental Pain(歯科疾患疼痛)
a.Pulpal Pain
b.Periodontal Pain(
2.TMD Pain(TMD疼痛)
3.Non TMD Pain(非TMD疼痛)
顔面痛において歯科医が対処できるのは歯科治療で治る歯科疾患疼痛、あるいは、顔面の構造が原因で生じるTMDであり、TMDであると診断できれば咬合治療で対処することができることになる。歯科治療で歯痛がなくなり開口できるようになれば、歯痛によって筋収縮が誘発された歯科疾患疼痛であるということになるだろう(BellWE.OrofacialPains:Classification,Diagnosis,Management,ed4.Chicago:Year Book,101-150,1989.)
対処できないのは、顔面の構造が原因でなく、咬合治療で治らない非TMD疼痛や慢性疼痛を被っている場合で、スプリントなどの咬合治療で疼痛が軽減されないのは顎関節の問題で疼痛を生じたのではない非TMDであるかもしれない。TMDが自然治癒することや、有病率において女性が85%を占め、加齢とともに減少することなどから、咬合以外の要因の関与が考えられている。(McNeill C.Temporomandibular Disorders:Guidlines for Classification,Assessment of Orofacial Pain,Chicago:Quintessence,27-38,41,81-107,1993.)
しかし、不正咬合は顆頭をすり減らし、円板前方偏位や関節雑音が発生させ、ロックを誘発する。くいしばりなどの異常機能が存在していれば筋緊張が持続され、筋肉が短縮し、安静空隙が減少して歯牙が接触し、筋不調和や筋痛が誘発される。異常機能が生じると顎に対する過重の加わり方が変化し、顎運動異常が誘発されTMDが発症することが考えられる。つまり、TMDは、異常機能、そして、不正咬合の質と量がある臨界点を超え、咀嚼筋、顎関節や円板に負荷が加わることによって発症してしまうのだろう。
異常機能、不正咬合の質と量がある臨界点を超え、咀嚼筋、顎関節や円板に負荷が加わりTMDが誘発されると考えられる。 |
このTMDを修飾するものとして1.外傷、むち打ち、2.筋、骨格系の構造、解剖、3.心理、行動、習癖、4.滑液、ホルモン、神経伝達物質などの脳の化学物質の不均衡などの因子が考えられる(Bell WE.OrofacialPains:Classification,Diagnosis,Management,ed4.Chicago:Year Book,101-150,1989.)
TMD修飾因子
TMD発症に1.外傷、むち打ち、2.筋、骨格系の構造、解剖、3.心理、行動、習癖、4.滑液、ホルモン、神経伝達物質などが修飾する。
TMD Modification Factor
1Trauma,Whiplash
2.Muscle Skeretal Structure,Anatomy
3.
Psycho,Behavioral Habit
4.
Synovial,Hormone,Neurotransmitter
咬合治療するためのスクリーニング
Duration:どの位の期間、持続する時間、消えると全く無症状でいるのか?何時始まり、何時生じるのか?朝か夜か?Degree:どの位痛いのか?ぶり返すのか?痛みの軽減、あるいは、ひどくなったものに何かあるか?Distribution:痛みは、両側、片側か?ストレス、不安、緊張がないか?外傷、鞭打ちはないか?高血圧はないか?薬を飲んでいないか?歯科疾患はないか、歯科治療、矯正治療をうけていたか?などの必発的特徴を問診によって把握しなければならない。
Pain Feature
1.Dutation(期間)
2.Degree(度合い)
3.Distribution(分布)
1.現状分析(どうなっているか)、2.原因追求(どいうしてか)3.対策樹立(どうしたらよいか)4.予後推定(どうなるか)、5.可能性(咬合治療が出来るか)を認識してデンタルモデルの咬合治療で対処できるかを判断することになる Screening
1.現状分析(どうなっているか)
2.原因追求(どいうしてか)
3.対策樹立(どうしたらよいか)
4.予後推定(どうなるか)
5.可能性(咬合治療ができるか)
( 高島博:実存心身医学入門, 丸善,189-194,1981.Jerrold L.Dental records and records keeping.Am J.Orthod Dentofac Orthop,104:98-99,1993.)
TMDの多くは自分で誘発した疾患であるので、問診で主訴、病因歴、病歴、歯科疾患歴、現状のみならず、行動、心理面まで評価するようになってきている。患者さんが「朝痛い」というのであればブラキシズムに起因する疼痛、「夕方に痛い」ということになればクレンチングに起因しているTMDということになり咬合治療ができる。TMDは心理的に強く影響を受けているので肯定回答傾向という性質が強く「顎が痛いですか?」あるいは、「痛くないですか?」聞かれれると、「そういえば」とうことになり、どちらも「はい」と答えがちになる。自己認識が質問の内容によって変わる現象は、記憶の中からそれが正しいという証拠を探し出すので質問の仕方によって答えが全く逆になってしまう。「顎が痛いですか?」と、「顎が痛くないですか?」とでは同じ数字にならないということは、意図的に質問を作って誘導していけばどんな方向にでももっていくことができるということを意味している ( 唐津一:かけひきの科学,PHP新書,165-199,1997.)
Ⅳ.メディカルモデル
患者さんに疼痛部位を指で指示してもらうと、ほとんどが顎関節ではなく筋肉由来の筋痛であることが判る。筋痛においてデンタルモデルの咬合治療が効果的なのは咀嚼筋痛であるので、MPD SyndromeやFibromyalgia などと鑑別診断する必要がある。咀嚼筋痛は咀嚼筋の疼痛であり、頬骨弓直下の咬筋浅部の起始部に圧痛がある場合、直角方向にくいしばりをしていることが、右側の外側翼突筋に疼痛があれば左側方向にくいしばりしていることが疑われるが、顎内障などにおいても咀嚼筋痛が誘発される。この触診において、TMDは触診の強さに対し圧痛が変化するのであるが、非TMDの場合は変化しない(Simons D.Muscle pain symdromes.In:Fricton J,Award R(eds).Myofacial Pain and Fibromyalgia.New York:Raven,1-41,1990.)
ROM(開口度)が自動域と他動域、あるいは、垂直位と座位などで変化するのであれば、心理的な問題や人格的な問題を疑わなければならない。動作恐怖症は身体的に問題がなく、体を動かすことに不安があり、動かすことで不安が増大する。TMDの場合、開閉口すると疼痛が変化するのであるが、開閉口時に疼痛が全く変化しない場合は非TMDであるかもしれない。多くの筋痛は、その筋肉の使用しすぎ、使用していない筋肉の使用によって生じた筋骨格系由来の筋痛であるので、予防、セルフコントロールができる。
Reason of Medical Model Use
TMD Cause(Parafunction)
Muscle Pain(Over use or Sudden use of Unused Muscle)
Self Curable
Preventable
メディカルモデルが使用されるようになった理由
TMDのほとんどが自分で引き起こした筋痛であり、予防、セルフコントロールができることが多いからである。 そのため、筋緊張や筋痛の軽減に効果的な認知行動療法やエクササイズ、投薬などの可逆的で非侵襲的のメディカルモデルの治療方法が用いられるようになってきている。投薬は、疼痛を軽減させるが、くいしばりなどの異常機能、認知を変えない。認知行動療法は、異常機能、認知を変えることを目的としている
メディカルとデンタルモデルとの比較。
デンタルモデルは咬合治療を行い、メディカルモデルは疼痛管理を行う。TMDが不正咬合が関与していれば、デンタルモデルで咬合治療を行うことができる。
デンタルモデルの治療で効果的なのは、パラファンクションに起因する筋骨格系の疼痛である。
TMDが不正咬合が関与していれば、デンタルモデルで咬合治療を行うことができる。咬合治療によるTMD治療は第1期と2期の2つのステージに分けられる。第1期治療は、スプリントによる頭痛、異常機能の軽減が目的であるが、スプリント治療をする前に臼歯部にコットンロールを噛ませる、いわゆるコットンロールテストを行う。もし、疼痛が軽減されるのであればスプリント治療ができるが、疼痛がひどくなるのであればスプリント治療はできない。第2期治療の目的はスプリント治療後の顎位を機能できるようにすることで、咬合調整、矯正治療、修復補綴の3つの方法が考えられるが、なるべく可逆的で非侵襲的な矯正治療を行うべきである(下図)
咬合治療の手順。
第1期治療はスプリントによる異常機能の軽減、第2期治療はこの顎位を機能できるようにすることである。
矯正治療は、治療前の咬頭嵌合位が存在しなくなるので、CRで治療しなければならない。
Ⅴ.不正咬合
Edward Angleは不正咬合を分類し、アングン分類と命名した。コーケジアンはアングルⅡ級、モンゴロイドがアングルⅢ級、ニグロイドはバイマックスを示すことが多く、通常、不正咬合は形態学的バリエーションとして適応している(Angle EH:Classification for malocclusion,Dent Cosmos 41:248,1899.)Seligmanは、骨格的前歯部開口、6-7mm以上のオーバージェット、中心滑走が2mm以上、一側性クロスバイト、4本以上の臼歯部の欠損などがTMDに発展する傾向があることを示した(Seligman DA,Pullinger AG.The role of intercuspal occlusal relationships in temporomandibular disorders:J.Craniomandib Disord Facial Oral Pain,5:96-106,1991.)
TMD Occlusal Factor
Anterior Open Bite
Severe Overjet(6mm~)
Sliding(2mm~)
Unilateral Cross Bite
Posterior Teeth Missing(4~)
Ⅵ.スプリント治療
スプリント治療が効くのは、前歯がスプリントに接触すると神経筋反射によって顎をスプリントから離すことによって筋肉が弛緩するからである。しかし、John Rughはこの反射が起きるのは、スプリントを装着してからの最初の二週間だけであることを明らかにした(Rugh JD,et.al:Experimental occlusal discrepancies and nocturnal bruxism,J Prosthet Dent 51:548,1984. )
行動療法は前頭連合野における自己制御感、あるいは自己効力感を高めることで、くいしばりの抑制効果を示すが、スプリント治療の効果はスプリントのせいだと受け止め、効果は自己制御によるものではないと考えてしまうので、再発しがちになる。その他のスプリントが効く理由に、咬合、顎位、咬合高径の変化などの咬合要因が考えられ、咬合接触様式が変化すれば筋緊張が変化してしまうので、安静空隙、咬合パターン、BDO(咬合高径)も変わる。スプリント治療にもプラセボ効果がある。(Greene CS,Laskin DM:Splint therapy for the myofascial pain-dysfunction(MPD)syndrome:a comparative study,J.Am Dent Assoc 84:625,1972. )
Splint Effect
1.Occlusal Factor
Occlusal Change
Jaw Position Change
VDO Change
Free Way Space Change
Muscle Tension Change
2.Non Occlusal Factor
Pracebo
スプリントの効果。
スプリントを装着すると前歯がスプリントに接触し神経筋反射で顎をスプリントから離すため筋肉が弛緩して疼痛が解消される。
第1期治療はスプリントによる異常機能の軽減、第2期治療はこの顎位を機能できるようにすることである。矯正治療は、治療前の咬頭嵌合位が存在しなくなるので、CRで治療しなければならない。
Ⅴ.不正咬合
Edward Angleは不正咬合を分類し、アングン分類と命名した。コーケジアンはアングルⅡ級、モンゴロイドがアングルⅢ級、ニグロイドはバイマックスを示すことが多く、通常、不正咬合は形態学的バリエーションとして適応している(Angle EH:Classification for malocclusion,Dent Cosmos 41:248,1899.)Seligmanは、骨格的前歯部開口、6-7mm以上のオーバージェット、中心滑走が2mm以上、一側性クロスバイト、4本以上の臼歯部の欠損などがTMDに関与する傾向があることを示した(Seligman DA,Pullinger AG.The role of intercuspal occlusal relationships in temporomandibular disorders:J.Craniomandib Disord Facial Oral Pain,5:96-106,1991.)
TMD Occlusal Factor
Anterior Open Bite
Severe Overjet(6mm~)
Sliding(2mm~)
Unilateral Cross Bite
Posterior Teeth Missing(4~) 。
Seligmanは、骨格的前歯部開口、6-7mm以上のオーバージェット、中心滑走が2mm以上、一側性クロスバイト、4本以上の臼歯部の欠損などがTMDに関与する傾向があることを示した。
Ⅵ.スプリント治療
スプリント治療が効くのは、前歯がスプリントに接触すると神経筋反射によって顎をスプリントから離すことによって筋肉が弛緩するからである。しかし、John Rughはこの反射が起きるのは、スプリントを装着してからの最初の二週間だけであることを明らかにした.(Rugh JD,et.al:Experimental occlusal discrepancies and nocturnal bruxism,J Prosthet Dent 51:548,1984. )
行動療法
行動療法は前頭連合野における自己制御感、あるいは自己効力感を高めることで、くいしばりの抑制効果を示すが、スプリント治療の効果はスプリントのせいだと受け止め、効果は自己制御によるものではないと考えてしまうので、再発しがちになる。その他のスプリントが効く理由に、咬合、顎位、咬合高径の変化などの咬合要因が考えられ、咬合接触様式が変化すれば筋緊張が変化してしまうので、安静空隙、咬合パターン、BDO(咬合高径)も変わる。スプリント治療にもプラセボ効果がある.(Greene CS,Laskin DM:Splint therapy for the myofascial pain-dysfunction(MPD)syndrome:a comparative study,J.Am Dent Assoc 84:625,1972)
スプリント効果
1.Occlusal Factor
Occlusal Change
Jaw Position Change
VDO Change
Free Way Space Change
Muscle Tension Change
2.Non Occlusal Factor
Pracebo
スプリントを装着すると前歯がスプリントに接触し神経筋反射で顎をスプリントから離すため筋肉が弛緩して疼痛が解消される。プラセボ効果による疼痛の軽減は、歯科医の患者さんに対する対人知性、共感能力、また、患者さんの性格によっても影響される。プラセボが効くのは、不安が強く依存的、自己中心的で体に過敏で情緒不安定な人であり、効かない人は、かたくなで情緒的コントロールが強い傾向がある人だという (丸太俊彦:痛みの心理学,中公新書,2003.)
顔面疼痛がTMD であれば、咬合治療が疼痛軽減に寄与し、スプリントは治療だけでなく診断器具として使用することができる。スプリントを除去して疼痛が再発すれば、咬合要因が強いと考えられる(図7)。
スプリントによる診断
スプリントを除去して疼痛が再発すれば、咬合要因があると考えられる |
この第1期治療で異常機能、筋緊張や顎関節の症状が改善され、関節が安定していれば第2期治療に移行することができる.
StageⅡ Treatment Condition
StageⅠ Treatment
↓
Parafuction↓
Muscle Tension↓
No.Symptom Sign
Joint Stability
第2期治療に移行できるための条件
第1期治療で異常機能、筋緊張や顎関節の症状が改善され、関節が安定していることである。
Angle Class Ⅰ
側方運動において、作業側の上下の犬歯が接触しなければ、反対側臼歯に平衡側干渉が存在していることを意味している。咬合調整の原則は、平衡側と作業側の接触干渉の除去であるが、下顎第二大臼歯の咬耗が生じているような場合は、咬合調整は咬耗をさらにひどくし、過敏症を誘発する。また、骨関節炎などの骨変化がある場合の平衡側接触はこの状態の関節を保護しているので、平衡側接触を除去してしまうと関節に過重が加わり、TMDを悪化させてしまうことになるので、干渉の除去は咬合調整で除去するのではなく、矯正治療で除去すべきである (症例1)。Okeson JP et al:The influence of assisted mandibular movement on the incidence of nonworking tooth contact,J.Prosthe Dent 48:174,1982.
Angle Class Ⅱ(上顎前突)
アングルスーパーⅠ級の場合、下顎犬歯の遠心斜面は上顎犬歯の近心斜面に対して誘導することになるので、同側に誘導すると、限界運動は前方へ下顎を動かすことになる。アングルスーパーⅡ級の場合は、下顎犬歯の近心斜面は上顎犬歯の遠心斜面に対して誘導するので、同側に下顎を動かすと顆頭を後方への誘導し、顆頭、円板を偏位させて内障を誘発しクリックを発生させる。
Angle Super ClassⅡ:アングルスーパーⅡ級は、下顎犬歯の近心斜面は上顎犬歯の遠心斜面に対して誘導するので、同側に下顎を動かすと顆頭を後方への誘導し顆頭、円板を偏位させてクリックを発生させる。
このような場合、スプリント治療はクリックは消失させるが、この顆頭の遠心誘導が残っていれば再発させることになるので咬合治療が必要になる。
成長期
子供の成長のスパートの時に下顎骨や顆頭の発育不全を放置しておくと、骨の成長が不十分になり、下顎後退し、下顔面が長くなり姿勢が悪くなる。そのため、機能的矯正装置で成長阻害因子を排除し、成長を促進させることが大切である。子供のTMDの多くはオーバークロージャーで、下顎劣成長や中耳の問題を抱えていることが多い。頻繁に中耳炎を起こすような場合、機能的矯正装置で咬合挙上することによって中耳炎を予防するべきである。MacNamara JA Jr,Carlson DS:Quantitative analysis of temporomandibular joint adaptations to protrusive function.Am J Orthod 76:593-611,1979.
Petrovic AG,Stuffmann JJ.Lavergne J:Effect of functional appliances on the mandibular condylar cartilage.In Graber TM(Ed.):Physiologic Principles of Functional Appliances.St.Louis,The C.V.Mosby Co,Chap 5,pp 14-52,1987.
Altuna G,Woodside DG:Respose of the treatment with increased vertical occlusal force.Treatment and post-treatment effects in monkeys.Angle Orthod 55:251-263,1985.
治療前 |
オリジナル装置 |
リンガル矯正治療 |
治療後 |
Angle ClassⅡDivⅡ(過蓋咬合)
通常、閉口すると臼歯があたって中心滑走が生じ下顎を前方偏位させるのであるが、Ⅱ級Ⅱ類は短顔型で、垂直被蓋が大きく水平被蓋が少なく 、 上顎に対して下顎が小さく、Broody Syndromeに陥っていることが多いので上顎に対して下顎が小さく、Broody Syndromeに陥っていることが多いので
短顔型(右端)は歯牙が直立し、顆頭が後退して機能障害が誘発されやすい。左に行くと、長顔型の歯軸傾斜 | 顔とアーチの関係、短顔型(左側)は上顎歯列が広く、Broody Syndromeに陥りやすい。 |
閉口すると前歯が衝突して下顎が後方に偏位させる。また、下唇は通常、上下的に上顎前歯切端に位置しているのであるが(下左)Ⅱ級Ⅱ類の下唇はそれより5~6mm上方位にあるので、下唇圧で上顎前歯を後退させ、そして、その上顎前歯が下顎を後退させ、顎関節後部組織を圧迫する(下右)。
上顎前歯と下唇の関係、下唇は通常、上下的に上顎前歯切端に位置する。 | Ⅱ級Ⅱ類における前歯、Ⅱ級Ⅱ類の下唇は上方位にあり下唇圧で上顎前歯を後退させ、上顎前歯が下顎を後退させ、機能障害に陥らせる。 |
Ⅱ級Ⅱ類において、通常の厚さで作成したスプリントを装着してしまうと、離開させる為に前歯誘導がきつくなってしまうので、厚いスプリントを製作して離開できる様にしなければならない。それから矯正治療によって中心滑走を作り、下顎が楽に前方に位置できるようにする
Angle ClassⅢ(反対咬合、開口、非対称性)
反対咬合は前歯誘導が存在しないのであるがチョッパータイプのチューイングサイクルであるので筋痛は少ない。通常、前歯誘導が喪失し臼歯を離開させることができなければ、臼歯部が干渉され、側頭筋、咬筋、関節にストレスが加わり、頭痛、顔面痛、あるいは頚部痛が誘発される。このような疼痛を有する場合、前歯部と犬歯部に誘導を付与したスプリントを診断に利用する。もし、疼痛が軽減されたら、前歯誘導の喪失に起因したものとみることができるので、咬合治療を行うことができることになる。反対咬合にしばしばみられる下顎の側方偏位は、発育上の片側性の顆頭の過成長、劣成長、あるいは顆頭の変性変化をきたしたことに起因しているのか、スプリントで診断することができる。上顎舌側咬頭の接触を見て、咬頭接触が同じになれば、変性変化が安定したと考え、成長が終了したと考えられる女性は15歳、男性は19歳の頃に第2期咬合治療の矯正治療で下顎位の是正を行うべきである
結果
疾患や病気は、過去に働いた自然淘汰のせいで起こる。食物不足という淘汰圧がかからなくなれば、硬い物を食べる必要はなくなり、顎を強くするという淘汰圧が消え、不正咬合やTMDに罹患しやすくなる。肉体的な痛みを感じる能力が損傷を守るために進化してきたと同じように、不安を感じる能力は危険や脅威から身を守るために、筋痛が筋肉を使いすぎないようにするために、TMDに罹患すること顎を使いすぎないように適応してきた。TMDは一過性であり、リモデリングして適応するので治療を必要としている人はわずかであるとされている。女性はTMDが増幅さえるような考え方をしてしまうので、女性のTMD有病率が高まるのであるが、性差があるということは、咬合以外の因子が存在しているのは明らかで、咬合由来の顎関節症の考え方、顎に疼痛がもたらされればTMDだとする考え方は最近されなくなり、投薬や行動療法などを用い、TMDは自然治癒するという概念が広まり、咬合を変更しないメディカルモデルの治療が取り入れられるようになった。しかし、国内の矯正歯科界では、Rothや池田先生ら活躍によって、かつてのナソロジストが推奨した方法を伝承し、スプリントで中心滑走を除去してから矯正治療を行うデンタルモデルの方法が広まっている。この咬合治療が効果を示すのは、不正咬合、食いしばり、骨関節炎などの関節疾患に対してであり、治療対象を選択し、咬合治療はスプリントで疼痛を緩和し、その治療で変化した顆頭の位置を収める為に矯正治療を行うことができるのである。、Burch JG:Orthodontic and restorative considerations.In Clark J:Clinical dentistry;prevention,orthodontics,and occlusion,New York, Harper & Row Publishers,Chapter 42,1976.
疫学的研究では咬合とTMDの相関関係も示されていなく、不正咬合がTMDを引き起こすわけでもなく、スプリント治療で疼痛が解消されたとしても咬合が原因だと特定することもできない。波多野泰夫先生は、「咬合病」という病名が残っているのは日本だけであることを記載した。丸茂先生によると、歯科医も咬合が原因で咬合治療が必要だと強化され、咬合病に罹患しているのは患者ではなく咬合を直さなければとパラノイアに罹患している歯科医の方であり、歯科医は患者さんに咬合に由来するTMDだという誤った認識を植え付けているという。彼らは、咬合の優秀な研究者であるにも関わらず、歯科医は咬合に目が行き問題を咬合で解決しようとスプリントを装着し、TMDにおいて疼痛が解消すると原因が咬合だと確信してしまい、その他に存在する情緒的ストレスやその行動、姿勢、頚部などの全身の病原因が見過ごされている。歯科医もスプリント治療を行うことで患者に症状の意識を高め、同情したり咬合治療をしたりして咬合に問題があると確信させ、患者さんは良くならないことから疾病利益を得て責任を避ける様にして慢性疼痛行動を強化しているのだと指摘した。しかし、矯正歯科界では、Rothや池田先生に影響をうけた矯正歯科医はTMDの原因は咬合だと主張する。なぜ、このように相反する理論が存在し、非難しあうのだろうか?人は、自分と相反する理論を持つ相手が存在するとステレオタイプを持ち出して彼らに反論してプライドを守ろうとするため、反対する人の話は理解できないだけでなく理解しようとすらできない。反証を突き付けられるほど信念を確信し、信じていることが裏づけることにかけて能力を発揮する。人は打ち負かすことにかけてはNo.1になる以上に惹かれるという20)。 リリャード ニコフ,勝貴子訳:重役室のサル,光文社,120-151,2006.フロイトは考えたくないことを無意識の中に抑圧したり、自分の邪悪性を他人に投影したりして、プライドは耐えられない思考を拒絶し自我を崩さないように防衛規制するという。「皮肉過程理論」によると、自我を崩してしまうような思考を浮かばないようにその思考を抑圧し、自分が見たいと思う「誤相関関係」を記憶の中から見つけだし、事実が信用できないものであっても信じたことにしがみつきたい「信念固執」という衝動がある。また自分の都合のいいように物事を解釈し、望ましい記憶を呼び出し、自分のステレオタイプ強化する「ステレオタイプリフト」を行う。客観的認識ができるようになるには、生物学的にバイアスまみれであることを認めることである。また、自分の意見を聞かせるには、批判者を賞賛でもしてみることだ。対立人から絶賛でもされるようなことがあるとやっと対立者の話が聞けるようになり、少しは客観的になれるようにできているらしい
コーデリア ファイン,渡会圭子訳:脳は意外とおバカである,草思社,194-222,2007.
不正咬合と異常機能の存在があってTMDと診断することができてはじめて、デンタルモデルの咬合治療を行うことができることになる。スプリントのプラセボ効果によってブラキシズムが減少するという報告もある。
Clark GT,Beemsterboer PL,Solberg WK,Rugh JD.Nocturnal elctromyographic evaluation of myofascial pain dysfunction in patients undergoing occlusal splint therapy.J Am Dent Assoc,99:607-611,1979.
Fibromiologiaは、Primary:1次性、Secondary:2次性の2つに分類されているが、Primary Fibromiologiaは緊張、不安、睡眠できないという精神不安から誘発され、Secondary Fibromiologiaはパラファンクションに起因する筋痛があるので、咬合治療で対処することができる。Moldofsky H.The contribution of sleep-wake physiology to fibromyalgia.In Fricton J,Award R(eds).Myofacial Pain and Fibromyalgia.New York:Raven,227-239,1990.
関連痛を見つけたトラベルは、咬合の不調和によって顔面筋に関連痛を生じているので、咬合治療が奏功することを示している。Janet G.Travell,David G.Simons,川原群大監訳:トリガーポイントマニュアル,Ⅰ頭頸部編,227-293,1997.
また、咬合治療が効果がないとされている非TMD、慢性疼痛、リューマチ性骨関節炎、退行性骨関節炎などの全身性の疾患、心理的ストレス、個人の特有のパーソナリティや行動に起因する顎関節痛などに対しても、咬合治療の余地がしっかり残されている。そして、付随した咬合治療による審美性の回復は、混乱した心理的問題を解決することも期待することができる。
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