治療困難で複雑な舌側矯正治療をシンプル化するため
歯並びが悪いと歯を出して笑うことを避け、不自然な笑い方を覚え劣等感に陥ったり、ひきこもってしまいがちになる。以前、自分の子どもの悪い歯並びに悲観した母親がその子を殺した事件があった。歯並びなどの外見は人に快、不快刺激を与え、好感、嫌悪感を誘発し、扱いに影響し、良い人は良い扱いを受け、悪い人は悪い扱いを受ける。悪いと社会的出会いを回避し、不適応感を和らげる為にひきこもるというような防護策を身につけ、社会的適応度が低くなる。矯正治療を始めとする歯科治療は口元や顔の外見を美しくすることができるので、自分の外見が変わって魅力的だと思うようになると、対人技能能力は高くなり、その社会的波及効果は、社会的行動に影響して自信のある行動パターンを形成し、自己評価が安定して適応度も高くなる。このように、歯はコミュニケーションに関わる部分なので、良し悪しによって、好感、嫌悪感を持たれるので、歯並びを治したいと思っても、矯正治療を受けている人の絶対数が少ないので、矯正装置を見られるなどしてプライバシーの侵害、匿名性の権利の喪失などを経験したり、自尊心、尊厳を喪失させるのではという不安から躊躇してしまう。実際、矯正装置がからかいの対象となるのは日本に限ったことではない。矯正治療を受けることが社会的、職業的地位に貢献し、社会的に成功する手段だと考えられている。そのため、矯正装置が見えないアライナーというマウスピースのプレートタイプの矯正装置や裏側で治療する舌側矯正治療が行われている。1978年、藤田欣也先生は、世界で始めて、歯の裏側で矯正治療するという見えない舌側矯正治療のプロトコールを考案した。多くの歯科医は、この治療の手順が困難だと思い臨床に取り入れようとしないのであるが、この日本で生まれた矯正治療には、リスクと問題点が解決されていない。
舌側矯正治療を容易するための7つの方法を使用する。その一つが牽引ループを用いないでシンプルなスライディングメカニクスを用いて治療する。
Sliding Mechanics Advantage(スライディングメカニクスの利点)
1/Torque Control:トルクコントロールが容易。
2/Transverse and Vertical Control:上下、左右方向にコントロールが容易。
3/Procedure:操作が簡単でチェアタイムも少ない。
4/Comfortable:ループがないので舌に刺激しない。
Sliding Mechanics Disadvantage(スライディングメカニクスの欠点)
1/Torque Loss(トルクロス)
スライディングメカニクスでの抜歯空隙閉鎖のスペースクローズにおいてフルサイズワイヤーが使用できないので、ブラケットスロットとワイヤーとの遊びによってトルクロスが生じる(図3:遊び)。
オムコ社は.018インチのブラケットスロットにフルサイズのワイヤーが使用されなかった場合のトルクロス値を示した(表1:Torque Loss)。
Wire Size |
(°) |
.016×.016 |
19.8 |
.016×.022 |
10.7 |
.0175×.0175 |
6.9 |
.017×.025 |
5.6 |
.018×.025 |
2.5 |
表1:Torque Loss |
トルクロス対策
フルサイズ.018×.025インチワイヤーを用いてブラケットスロットとワイヤーとの遊びによって生じるトルクロスをなくす。
2/Friction(フリクション)
スライディングメカニクスは阻害する因子であるフリクションは、ワイヤーがブラケットの端に接触して生じる(図:Friction)。フリクションは、ワイヤーサイズ、ブラケットの形態、ブラケットスロットのサイズ、ブラケットの幅によって影響される。
フリクション対策
a.臼歯部のワイヤーを丸める。
フルサイズのワイヤーを用いてスライディングメカニクスを適用するには、臼歯部のワイヤーを丸めて滑りやすいようにしてフリクションを減らす。
b.臼歯部のブラケットサイズを大きくする
前歯を.018インチスロット、臼歯を.022インチスロットを使用することでフルサイズのワイヤー前歯のトルクを失わないようにして臼歯をスライドさせることができる。
2. Straight Wire(ストレートワイヤー)
犬歯オフセットのみを組み込んだストレートワイヤーにするために、前歯の舌側結節の削合やレジン修復を行う(
3. En Mass Closure(エンマスクロージャー)
小臼歯便宜抜歯した場合、舌側矯正治療は犬歯牽引で犬歯が倒れやすい。もし犬歯を倒してしまったら元に戻すことは不可能なので、犬歯牽引を行わないで、前歯と犬歯をエンマスクロージャーで同時に牽引する。しかし、同時牽引は臼歯部の固定を喪失させるのでアンカレッジ プレパレーションという固定強化しなければならない。
Anchorage Preparation(アンカレッジ プレパレーション)
舌側矯正治療は上顎前歯のブラケットのバイトプレーン(Bite Planeに下顎前歯が接触するために下顎前歯が圧下され、上顎前歯はフレアーする(Bite Plane Effect)。
舌側矯正治療は上顎臼歯部の固定が弱くなるので、アンカレッジ プレパレーションするべきである(Anchorage Preparationの方法)。
反対に下顎臼歯部は固定が強いので、ブラケットを滑りやすいようにワイヤーを丸めてスライディングメカニクスを阻害する要素を排除する必要がある。
Anchorage Preparationの方法
1/EXT Site(便宜抜歯部位)
上顎は第1小臼歯を抜歯し、5,6,7の固定のユニットとし固定強化し、下顎は第1小臼歯を抜歯しないで第2小臼歯を抜歯し、固定ユニットを弱め、臼歯部がロスしやすいようにする。 (上顎第1小臼歯、下顎第2小臼歯抜歯症例
)
2. En Mass Closure(エンマスクロージャー)
小臼歯便宜抜歯した場合、舌側矯正治療は犬歯牽引で犬歯が倒れやすい。もし犬歯を倒してしまったら元に戻すことは裏側の治療の場合、非常に困難なので、犬歯牽引を行わないで、前歯と犬歯をエンマスクロージャーで同時に牽引する。しかし、同時牽引は臼歯部の固定を喪失させるのでアンカレッジ プレパレーションという固定強化しなければならない。
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アンカレッジ プレパレーション(En Mass Closure,EXT site,Palatal Bar) |
2/Inter digitation(咬頭嵌合)
側方歯群の咬合を崩壊させないようにしてスペースクローズする。
3/Anglation(アンギュレーション)
ブラケットのアンギュレーションを強め、臼歯部をティップバックさせ固定強化する。抜歯した場合、ボーイングイフェクトを防止する為に臼歯部ブラケットのアンギュレーションを-5°位弱める。ついでに、前歯部のティップを補正するため、上顎前歯ブラケットは10°、下顎前歯ブラケットは、5°位強めている。
4/8 Tie(8タイ)
上顎臼歯部ブラケットをリガチャーワイヤーで8タイしてアンカーユニットにして固定を強化する。
5/Chinch Back(シンチバック)
下顎前歯が上顎のバイトプレーンに接触して上顎前歯をフレアーして固定をロスしてしまうので、最後方歯の上顎のワイヤーをチューブの遠心でワイヤーが前に行かないようにシンチバックする。
6/Open Coil(オープンコイル)
叢生の歯牙をアーチに入れる為に臼歯から牽引するのではなくオープンコイルで改善してアンカレッジロスを防ぐ。
7/Inter maxillary ELS(顎間ゴム)
ClassⅡ顎間ゴムで上顎臼歯群の固定を図り、下顎臼歯群をロスさせる(図:Inter Maxillary Elastics)
8/Transpalatal Bar(トランスパラタルバー)
TBを上顎第1大臼歯に装着することで、上顎臼歯群の固定を補強する(図:U4,L5 EXT Case)。
4.Inter Maxillary ELS(顎間ゴム)
患者さんを快適にする為にヘッドギヤーなどの顎外装置、リトラクションのループなどを使用させない代わりに顎間ゴムを使用させる(下左図:顎間ゴム)。
顎間ゴムに対する注意
顎間ゴムは、上顎前歯と下顎臼歯を挺出させ、咬合平面を傾斜させ、顔面軸を回転させる(下水図:咬合平面の傾斜)。
咬合平面を傾斜させないようにする対策
a.ワイヤーにリバースカーブを組み込んで、上顎前歯と下顎臼歯に圧下力を加える。
b.ワイヤーを太くする。
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顎間ゴムの弊害 |
ClassⅡ顎間ゴムに依る大臼歯のロスは、大臼歯の近心回転に起因する。舌側からのⅡ級顎間ゴムは大臼歯を遠心回転させ、大臼歯をロスさせる事が困難になるので表から使用するべきである。(下図:顎間ゴムによるミッドラインコレクション)。
5.Enemel Reduction(エナメル質削合)
エナメル質削合によって歯冠の幅を減らし、矯正治療の為の便宜抜歯を回避する。エナメル質の幅からして、前歯は、近心と遠心で合計0.8mm、臼歯は、約1mm削合することができるので0.8×7+1×6=11.6のスペースを作ることができる。ということは、11.6÷2=5.8mm前歯を牽引することができることになる(図14:Enamel Reduction)。
Enamel Reduction(エネメル質削合)注意
1.ERで歯を近接させると歯間の骨、乳頭を圧迫して血行障害を来たし退縮を誘発する。
2.ERは、レベリングしてから施行する。整直した状態によって削合量、対象性などを判断しなければならない。
Enamel Reduction(エネメル質削合)の優先順位
エナメル質削合の優先順位は1.大臼歯、2.小臼歯、3.前歯にする。前歯は審美性に関わる部位なのでなるべく回避しなければならない。
6.Expansion(拡大)
拡大装置でアーチを拡大し、矯正治療のための便宜抜歯、エナメル質削合を回避する(下:拡大治療)
7.Functional Appliance(機能的矯正装置)
機能的矯正装置の使用によって前後(図上:ClassⅡFunctional Appliance Treatment)、上下的な顎関係(図下:Open Bite Functional Appliance Treatment)を改善し、便宜抜歯や顎外装置を回避する。
Lingual Orthodontics Ideal Case(舌側矯正治療の理想的な症例)
リンガル矯正治療はバイトプレーン効果を有する。
Deep Bite(過蓋咬合)
下顎前歯が上顎ブラケットのバイトプレーンに接触し、下顎前歯が圧下され、ワイヤーに操作することなくディープバイトが改善される(下図:Deep Bite Case)。
ガミースマイル(バイトプレーン効果によって上顎平面を前方回転)
Bite Plane効果によって、上顎骨を前方回転させ、ガミースマイルの改善が容易である。
Lingual Orthodontics Hard Case舌側矯正治療の困難な症例)
1.開口と2.骨格的Ⅲ級などの症例は舌側矯正治療のメカニクス上、治療困難な症例になることが多い。
1.開口
舌側矯正治療は上顎のバイトプレーンが下顎前歯に当たり、前歯の圧下につながるのでバイトが開きので、前歯部のオーバーラップを深くすることができないので、開口症例は困難になる(図19:Open Bite Case)。
開口症例に対する対策
1.ブラケットハイトを0.5-1mm、前歯部を深くし、臼歯部を浅くしてオーバーラップを増やす。
2.もし、オーバージェットやオーバーバイトが残った場合、前歯のエナメル質をエネメルリダクションしてスペースを作り、スペースクローズして前歯咬合を確立する。
2. 骨格的Ⅲ級
舌側矯正治療は、下顎前歯は舌側傾斜する傾向にあるので、骨格的Ⅲ級症例は、下顎小臼歯を抜歯するとさらに舌側傾斜が強くなる。(図20:骨格的Ⅲ級症例)。
骨格的Ⅲ級に対する対策
1.フルサイズワイヤーを使用する。
2.なるべく下顎の便宜抜歯を避ける。
Lingual Orthodontics Advantage(図: )
藤田欣也は、舌側矯正治療の利点(図:舌側矯正治療の利点)、欠点(図:舌側矯正治療の欠点)を示した)。
1.Invisible(見えない)
リンガル矯正治療は最も審美的な矯正治療である。
2.Caries(カリエス)
舌側は唾液分泌されるので、虫歯に罹患しにくい。
3.Anchorage(固定)
大臼歯に遠心回転、バッカルルートトルクが加わり強力な固定を得ることができ、容易に前歯が後退し抜歯スペースをかなり早く閉鎖することができる。
下顎のワイヤーにリバースカーブを付与するとバッカルルートトルクが付加され大臼歯の固定が強化される。(図:バッカルルートトルク)。
4.Space Closure(抜歯空隙閉鎖)
Inter Bracket Span(ブラケット間の距離)が狭いので強い力が加わり、抜歯空隙閉鎖が早い(図:Inter Bracket Span)。
5.Bite Plane Effect(バイトプレーンエフェクト)
1. オーバーバイトが減少
唇側の治療で、下顎前歯群を牽引すると、舌側の皮質骨に歯牙が当たり、挺出するが、リンガルの場合は、下顎前歯は、上顎のバイトプレーンと接触し、圧下され、オーバーバイトが減少し、スピーカーブが平坦化する(図:Bite Plane Effect)。
2.TMD解消
上顎のバイトプレーンに接触すると下顎前歯は、神経筋機構が発達している為、下顎を離し、咀嚼筋が弛緩し、顎関節症の症状が消退する。しかし、この状態が長期に持続されていると下顎が後退し、オーバージェットが増えオーバーバイトが少なくなり、開口になるので注意しなければならない。
3.臼歯部挺出
上顎前歯にブラケット装着した時点で、バイトプレーン効果によって臼歯部開口が生じるが、約3ヶ月で臼歯が咬合してくる。臼歯が挺出し、顔面軸を回転をさせたくない場合、臼歯部にコンポジットで1次的な修復をしておき、コンポジットを削合する。
6.Spee Curve Auto Correction(スピーカーブオートコレックション)
ラビアルの矯正治療は、前歯は抵抗中心から離れるので、レベリング用の最初のワイヤーを装着すると前歯はフレアーする。舌側矯正治療の場合、上顎前歯は、下顎前歯が上顎前歯部のバイトプレーンに接触する(下図:上顎前歯はフレアー、下顎前歯は圧下される)。それによって上顎前歯はフレアーするが、舌側矯正治療におけるブラケットの位置は抵抗中心に近いので、下顎前歯は圧下される。
下顎前歯は、上顎前歯のブラケットのバイトプレーンに接触して圧下されれば、下顎歯列のスピーカーブが自動的に改善される(図:下顎歯列のスピーカーブが自動的に改善される)。
7.Habit(習癖)
口蓋扁桃や咽頭扁桃肥大がある場合、開口部を閉鎖してしまうので、気道確保を確保する為に舌を前方に出して呼吸しようとする。しかし、舌側矯正治療の場合、装置が舌側に付着されるので、舌癖などの習癖を改善することが可能になる(図:Habit)。
Lingual Orthodontics Disadvantage(図)
克服されていない問題点が数多くある。
1.Periodontal Problem(歯周病の問題)
上顎前歯ブラケットは、上顎前歯と臼歯間に上下的な差を是正する為に歯肉側に装着する必要があり、ブラケット底部から歯肉縁までの距離が短くなってしまうので、歯肉炎を誘発する。リンガルブラケットを歯頚部に近接して装着すると炎症が開始されPseudo Pocketが形成される(図の中央)。本当のPocketになると歯肉は腫脹して剥がれれば、生物学的副径を保とうとして骨退縮する。前歯部における骨退縮は歯槽骨が薄いのでComplete Bone Lossし、ブラックホールを発生させる(図:Anterior-Complete Bone Loss)。臼歯部は頬側の骨は太いので、垂直的な問題が出現し、内側の骨は喪失するが外側の骨は残存するので、骨縁下ポケットを作る(図:Posterior:Infrabony Pocket)。
Dennis Tarnowは5mmの接触点から歯槽骨まで距離が乳頭を存在させることを見つけた。乳頭を失いブラックトライアングルが出現した場合、エナメル質削合によって接触点を下げ、接触点から歯槽骨までの距離を5mmにして乳頭を作る。(図:Black Triangle)
5mm or less |
Present 100% |
6mm |
Present 56% |
7mm or more |
Present 27% |
図::Black Triangle |
2.Wire Bending(ワイヤーベンディング)
藤田欣也先生は、ワイヤーに犬歯と小臼歯の間に犬歯オフセットを入れる必要があることを世界で最初に見つけ、犬歯オフセットが組み込まれたワイヤーをマッシュルームアーチと命名した3)(図:マッシュルームワイヤー)。
下顎第1小臼歯の舌側咬頭は劣形の場合が多いので(図:下顎第1小臼歯)、レジン修復してセカンドオーダーベンドを排除する必要がある(図:下顎第1小臼歯レジン修復)。
3.Tip(傾斜)
Space Closure(抜歯空隙閉鎖)の注意
1.舌側矯正装置のブラケット間距離(Inter Bracket Span)が短いので、抜歯空隙のスペースクローズにおいて、強い力が加わり、早期に抜歯空隙閉鎖が終了する。そのため、前歯を舌側にTip(傾斜)してしまう(図:下顎前歯は空隙閉鎖で舌側傾斜する)。
2.垂直的な圧下力と水平的な牽引力との応力が同じだとすると抵抗中心を通過し、歯体移動することになる(図:Center of Ressistance)。そのため、舌側矯正治療は、前歯の水平的な牽引量が、垂直的に圧下量を上回り、前歯が舌側傾斜してオーバージェットが出現する。
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下顎前歯は空隙閉鎖で舌側傾斜する |
Center of Ressistance |
ティップ(前歯の傾斜)を生じさせないようにするための対策
1.レベレング後、スペースクローズの前にフルサイズに近いワイヤーを入れてトルクコントロールしておく。
2.スペースクロージャーにおいて、ワイヤーを弱い力で牽引する。
3.スペースクロージャーにおいて、前歯部に圧下力を付加して牽引する。
4.オーバージェットが残ってしまったら、前歯の隣接面をERして前歯を牽引する。
4.Bowing Effect(ボーイングイフェクト)
1/Transverse Bowing Effect(トランスバースボーイングイフェクト)
スペースクロージャーにおいて内側から牽引する為に大臼歯が遠心回転、近心傾斜し、臼歯が外側に動く力になる(図:Transverse Bowing Effect)。
トランスバースボーイングイフェクトに対する対策
1. ボーイングイフェクトを相殺する為にワイヤーにBow Inn Curve(ボーインカーブ)を組み込む(図: Bow Inn Curve)。
2.第1大臼歯の唇側から犬歯の舌側にかけてパワーチェーンで牽引してボーイングイフェクトを相殺する(図:Bowing Effect Correction)。
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Bow Inn Curve |
Bowing Effect Correction |
3.犬歯-小臼歯間牽引:前歯部と臼歯部を別々に8タイし、犬歯と小臼歯間で牽引する。第1大臼歯、第2大臼歯まで延ばすとボーイングイフェクトが生じるからである。 4.パラタルバー舌側から空隙閉鎖すると大臼歯を遠心回転し、ボーイングイフェクトが生じる。そのため、大臼歯の遠心回転をパラタルバーで予防する。 (図41:犬歯-小臼歯間牽引)。
2/Vertical Bowing Effect(バーティカルボーイングイフェクト)
スペースクロージャーにおいて牽引力が前歯を挺出させ、臼歯部を近心傾斜させバーティカルボーイングイフェクトを生じさせる(図42:Vertical Bowing Effect)。
牽引力が強ければ、臼歯が近心傾斜し臼歯部開口を、弱ければ前歯部開口を誘発する。
バーティカルボーイングイフェクトに対する対策
1.補正の為のAnti Bowing Curveを組み込む。(図43:Anti Bowing Curve)。
2.上顎のワイヤーのリバースカーブを組み込むと大臼歯の頬側咬頭が上がり、舌側咬頭が下がるので、トランスパラタルバーを組み込んで防止する。
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Vertical Bowing Effec |
Anti Bowing Curve |
5.Overlap(オーバーラップ)
下顎前歯切端が上顎のバイトプレーンに当たる為、スプリント効果で下顎が後退し、上下顎前歯間にスペースができたり、オーバーラップも少なめに仕上がる(図44:Bite Plane)。対策として装置をなるべく深めに装着し、治療中にバイトプレーンを削る(図:Bite Plane Trimming)。
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Bite Plane Effect |
Bite Plane Trimming |
6.EXT(抜歯)
バイトプレーンイフェクトによって、上顎前歯がフレアーし、下顎前が圧下されオーバーラップが少なくなるので、便宜抜歯をせざるを得なくなる(図:Anterior Flaring)。 抜歯すると骨よりも先に結合織、上皮が侵入するが、抜歯窩が完全に骨で埋まらない。その部位に歯牙を移動すればポケットができ、ブラッシングによって、ポケットがなくなれば歯肉退縮が生じる。
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前歯が前突する |
前突するため、便宜抜歯せざるを得なくなる。 |
EXT Decision(抜歯部位の決定)
藤田欣也先生は、リンガル矯正治療の際の抜歯部位の選択の優先順位の原則を示した5) (図: 抜歯部位の選択の優先順位)。
1/Non Ext:エネメル質削合、拡大や機能的矯正装置を併用して非抜歯治療を考える。次に、
2/Theree Incisor EXT:下顎前歯の1本の抜歯を考える。
3/Upper 1st Premolar EXT:上顎第1小臼歯のみの抜歯を考える。
4/Upper 1st Premolar,Lower 2nd Premolar Ext:年齢、骨質などにも依るが、Ⅰ症例でさえ、下顎第2小臼歯を抜歯したとしても下顎臼歯はロスしにくいので、なるべく下顎第1小臼歯抜歯を回避する。
5/Both 1st Premolar Ext:通常の上下第1小臼歯抜歯
●7.Treament Term(治療期間)
前歯部のインターブラケットスパンが短い為、叢生の歯牙に最初からブラケットの装着ができないので、治療期間が長くなる。
Bonding(ボンディング)
ボンディング上の留意点
1.中央にブラケットを装着すると卵円形のアーチを描くことができず直線になるので、中央より近心側にブラケットを装着させる(図:中央より近心側にブラケットを装着)。
2.唇面を正直したいので、ブラケットは切端と平行にしないで、唇面を平行に装着する(図:前歯部ボンディングは唇面に平行に)。
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中央より近心側にブラケットを装着 |
ブラケットは切端と平行に |
3.上顎前歯ブラケット
上顎前歯ブラケットは、 唇側の前歯のブラケットは歯軸が傾斜しても、装置の装着する位置はあまり変わらない上顎前歯と臼歯間に上下的な差を是正する為に歯肉側に装着する必要がある。(図50:Labial Bonding)。
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唇側は、LP Point上に装着する |
LA Point上にボンディングするために歯肉側に装着する必要がある。 |
舌側矯正装置は歯牙の傾斜は、ブラケットハイトに影響する。傾斜が変化するとその位置での歯の厚みも違ってくるので、インアウトの問題が出現してしまう(図)。
臼歯のLA Point(FACC Point)、つまり、上下的中央に装置を装着してみると、上顎前歯は唇側に傾斜しているので、LA Pointは歯頚側1/3に来る。上顎前歯は傾斜しLA Pointは歯頚部を通過するので、オーバーラップを作る為にも前歯部のブラケットは、歯頚側1/3に装着する必要がある。歯周組織を配慮してLA Pointに装着したければセカンドオーダーベンドを入れる必要がある(図:Upper LA Point)。
Lower Anterior
下顎前歯は、下顎骨平面に対し直角に萌出し、直立しているので、前歯のLA Pointは臼歯のそれと上下的に一致する。つまり、下顎のブラケットは、前歯、臼歯ともに上下的中央に装着すればよいことになる(図:Lower LA Point)。
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Upper LA Point |
Lower LA Point |
Last Molar Bonding(最後臼歯部のボンディング)
スペースクローズすると、唇側の矯正治療の場合、近心回転するので、大臼歯を遠心回転させる為にブラケットチューブにトーインを組み込んであるDistal Inset Tubeを用いる(図: Distal Inset Tube)。しかし、舌側矯正治療の場合、遠心回転しトランスバースボーイングイフェクトが生じるのでトーアウトを組み込んで近心回転させるDistal Offset Tubeを用いる。(図: Distal Offset Tube)。
もし、唇側のチューブを装着する場合、遠心回転してボーイングイフクトを誘発させないように、小さめのブラケットを近心咬頭に装着して遠心回転を予防する(図:Last Molar Bonding)。
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唇側ブラケット:Distal Inset Tube |
舌側ブラケット:Distal Offset Tube |
Last Molar Bonding |
Bracket Height(ブラケットハイト)
Upper Anterior
Bracket Height:ブラケットハイト(切縁からブラケット基底部までの距離)は、前歯、臼歯ともに3mm前後である(図57:Bracket Height)。
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Upper |
Teeth No. |
7 |
6 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
Height(mm) |
1.5 |
2 |
2.5 |
2.5 |
3 |
3 |
3 |
Lower |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
3 |
3 |
3 |
2.5 |
2.5 |
2 |
1.5 |
歯周組織を守る為にブラケット底部から歯肉縁まで、約1mmのスペースを開けるべきなので、舌側結節の形態修正する必要がある(図Gingival Space)。ブラケットの基底部までの高さは約3mm(矢印)、切端からのバイトプレーン迄の距離は約1.5mm(点線)、バイトプレーンからブラケット基底部までの距離は約1.5mmということになる(図:Bite Plane Height)。3mmの位置にポジショニングするとオーバーラップは1.5mmになる。バイトプレーンを0.5mm削合したとしてもオーバーラップは、2mmしかとれない。傾斜が強い場合は、低くポジショニングする必要があり、舌側矯正治療は、深いオーバーラップを作ることができない。
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Gingival Space |
Bite Plane Height |
オーバーラップの問題
前歯のオーバーラップ量が臼歯のカスプハイトより大きければ、咬頭嵌合が得られる事になる。(図60: Overlap> Cusp Height)
オーバーラップが少ない場合、前歯のオーバーラップ量と、小臼歯のカスプハイトの高さを比較する必要がある。Overlap> Premolar Cusp Heightであることが大切で、舌側矯正治療は、下顎前歯が上顎のブラケットのバイトプレーンに接触するため、Overlap<Cusp Heightになりがちである(図61: Overlap<Cusp Height)。
対策
1.前歯のブラケットを深くする。(+0.5mm=3.5mm)
2.臼歯のブラケットを浅くする。(-0.5mm=2.5mm)
3.前歯ブラケットを深くして、臼歯ブラケットを浅くする。
大きい方を小さくして、小さい方を大きくし、スピーカーブを作る必要がある。
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